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久しぶりにイラストレーターのお友達とランチの後、
ふじわらてるえさんの展示『すずなり交差点』 (Click!) におじゃましました。
彼女の絵の世界そのままの、かわいらしい空間に包まれながら、
お手製のレターセットやカードを選んだり、原画の細やかさに感動したり。
楽しいひとときとなりました♪
乃木坂のta Galleryさんで5/2まで。

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来月始まるomitmentさん (Click!) ご参加のイベントも楽しそう♪
みんなのお話を聞くと参考になることたくさんあって、
いつもパワーをもらいます。

*私の方はといいますと・・・もうすぐ詳細お知らせできそうです。
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チョコレート

text:志岐奈津子  illustration:内藤和美

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午前2時。
ぼくは少し疲れを感じて、デスクの引き出しを開けた。
しまっておいた板チョコを取り出すためだ。
疲れたときや気分が乗らないときには、これを2~3かけらかじるのがいい。
メーカーやブランドが決まっているわけではなく、
コンビニで目についたものを買って、ここにいつも1~2枚入れてある。

買うときにはそう食べたくはなくて、本当に必要だろうかと思ったりもするのだが、
必要になってこの引き出しを開けるときには、本当に感謝するのだ。
買っておこうと思った、その時の自分に。

包み紙をはがして、銀紙もはがして、端っこの一列をぱきんと割った。
そのとき、引き出しの中から声がした。

「ぼくにもひとかけらくれない?」

見ると、とても小さな黒いクマが、引き出しからよいしょと這い出してきた。
ぼくはとっさに身構えた。
小さいとはいえクマだし、黒というのはたいてい良くないものの色だ。

「怖がらないでくれ、悪いクマじゃない。かと言って、いいクマでもないけどね。
よい子のお友達テディベアちゃんでもなければ、クマの皮をかぶった天使でもない。」

黒い毛皮の中に見える黒い瞳を覗き込んでみれば、確かにそう悪そうでもない。
そして彼が自分で言うように、愛や夢を運ぶ存在でもなさそうだった。

「名前は?」

ぼくは、チョコのひとかけらを彼に渡しながら尋ねてみる。

「まだない。きみが好きにつけるといいよ。」

「ぼくが?」

「きみに呼ばれたクマだから」

「ぼくはクマを呼んだおぼえはないけど」

「自覚はなくても、きみはクマを必要としてた。真夜中の仕事の合間にチョコレートを必要としたようにね」

そうなのだろうか、とぼくは考えた。いま、ぼくにクマは必要だろうかと。
たしかに、小さな黒いクマがもぐもぐとチョコレートを食べているのを見ていて、
イヤな感じはまったくしないし、珍しい生き物に遭遇できたというのもうれしい。
必要かどうかはわからないにしても、不必要ではない気がした。

「どんな名前でもいいの?」

「うん、でもクロクマだけはやめてくれよな。人間はペットに見た目そのままの名前をつけたがるけど、ぼくはきみのペットじゃない。」

クロクマにしようと思っていたぼくは、気持ちを見透かされて苦笑いをした。
出会ったばかりで、彼のことを何も知らない。自分の子供に名前をつけるときのような「力強く育ってほしい」とか「優しい大人になってほしい」といった希望が彼にあるわけでもない。となると見た目しか名前のヒントになるようなものはない。

しかし、ぼくはあるものに目をとめた。定規だった。彼をよく知らないけれど、これを使えば、ひとつ彼について知ることができる。

「そこに立ってくれないかな。背筋をのばしてまっすぐ」

「なるほど、いいことを思いついたようだね」

ぼくが手にとったプラスチックの定規を見て彼がニヤリと笑う。そして、食べかけのチョコを持ったまま、ピンと背筋を伸ばして立ってくれた。

「きみの身長は………7センチぴったり」

「ということは?」

「きみの名前はナナセンチ!どう?」

「まあいいだろう。」


ナナセンチはそう言って、残りのチョコレートを口に入れて満足そうに笑った。

これが、ぼくとナナセンチの出会いだった。
どうしても必要というわけでもないけれど、あれば嬉しい引き出しの中のチョコのような。
そんな小さな黒いクマとの出会いだった。


***